約 1,375,031 件
https://w.atwiki.jp/jojobr2/pages/337.html
どこへ行こう。 あたしはさっきからずっとそればっか考えていた。 そのせいでまだ一歩も踏み出せないでいる。 徐倫のため他の奴らを殺して回る、とは言え、徐倫本人に会うのは避けたい。 そりゃあ、探して保護した方がどう考えても良いだろうが、そんな効率の問題じゃあない。 向かいたいのは、『人が寄り、なおかつ徐倫が行かない』どこか。 徐倫を襲いかねない危険人物を探すのもだが、優先すべきはこれだ。 危険人物と言えば……プッチはどこ行っちまったんだ? プッチと同行してたらしい筋肉達磨も行方不明だし、放置すんのは絶対に避けたい。 「やっぱ行くっきゃねえのかなあ~?」 さっきから気になってしょうがない巨大な建造物、コロッセオ。 イタリアだったかに在ったんじゃあねーのか? 極上の料理にぶっかけた蜂蜜のように街の景観はブッ壊されてることだろーよ。違和感バリバリだ。 徐倫はわざわざ行かないだろうな、こんなところは。拠点にするには無駄に目立ち過ぎる。 かと言ってここに寄りつく奴なんてそうそういないだろうってのもまた言えるわけで。 いるのは、状況の見えてない馬鹿か、相当の自信家のどっちかだろう。 6時間も経ったんだから皆現実が見えてるだろう、後者の可能性の方が高い。 「いいや……違う、行かなきゃいけない。徐倫のためにもここは!」 行かなきゃいけない。 たとえ誰もいなくても、いずれ捜索する者が現れるだろう。 物陰に隠れてそいつにFF弾を打ち込めばそれでいい。 それだけで、たったそれだけで決着はつく。 「……できるのか? あたしは、その『たったそれだけ』が?」 乗っ取った男、ダービーを打つ時さえためらったのに? 震えが止まらず、ろくに照準を合わせられなかったのに? そもそも途中まで殺しを躊躇してたのに? (なのに貴様は『たったそれだけ』などと、エラソーにのたまってるのか? プランクトンの分際で) プッチ神父があたしを嘲る声が聞こえた、気がした。 「……ああ、そうだ、『たったそれだけ』だよ。わけねぇんだ、徐倫のためなら」 その声を振り切るようにして走る。 ウダウダ悩んでる暇はない、徐倫の身を案じるなら。 思い出を足かせのように引きずってしまうから一歩一歩が重いんだ。 捨てなきゃあ、前には進めない。 必要なのは目的。空条徐倫のために戦うという目的だけ。 ★ 話し相手がいないというのは、寂しいものだな。 プッチが居なくなってから、奴の魅力を再認識させられた。 することもなく一人でいるのは面白くない。 悠久の時を生きてきたはずなのに、退屈な時間はひどく長く感じる。 いつもだったら頭のクールダウンに十分な時間は過ぎただろうが、高ぶった気持ちは一向に冷めない。 同族のこともそうだが、ここに来てから満足に戦えていないのが原因だろう。 プッチには悪いが、今誰か来ようものなら手加減できるかどうかさえ怪しい。 「ヌウ?」 侵入者……来たか。 足音を出来るだけ出さない歩き方はしているが、地を伝わる振動は消しきれまい。 だが、気配の消し方は修羅場をくぐりぬけてきた波紋戦士のそれに劣らない。 これほどの腕なら、その力奴らに匹敵するかもしれん。 文字通り血が滾るのがわかる。 ジョルノとの戦いの際、プッチに介入されてから、その鬱憤を晴らしたくて辛抱たまらなかった。 今回は邪魔する者はいない。来ようものなら、そいつごと叩き潰すまで。 狩りの対象の足音止まる。距離からして、機を見計らっているのだろう。 「そこにいるのはわかっている。おとなしく出てきたところで見逃す気などないがな。 貴様がその気なら、相手してやろうじゃあないか」 スッと立ち上がってみせたが、向こうは動かない。 「来ないのか? ならばこちらから向かうぞ」 不意を突こうとしたのだろうが、無駄だ。その目論見ごと吹き飛ばしてくれる。 対象は20メートル先、柱の後ろ。侵入者は動かない。 接近、残り10メートル。侵入者は動かない。 接近、残り5メートル。まだ動かない。 3メートル、2メートル、1――――。 右足を鞭のように振るい柱をなぎ倒す。 石塊吹っ飛び、破片舞い散る。その陰からひらりと飛ぶ影一つ。 射出音六度響く。飛来物が2、3頬を掠る。 横転しながら着地したそいつは。 「貴様は……」 ジョルノに治療されたはずの男だった。 ★ (チッ……柱の影を見に来たところを上からズガン! と考えてたが甘かったぜ。 しかし、よりによってあの筋肉達磨が相手か!) さっきまでプッチの次に再会を願ってはいたものの、それは恋い焦がれた者同士が浮かべるような感情じゃあない。 こいつに対しては、そんなのとは対極にある憎悪しか浮かばない。 『どうやらコイツは貴方の肉体を取り込んだようです! つまり貴方とヤツの相性は最悪!』 ジョルノの言葉を脳裏で反芻する。 F・F弾はプランクトンを射出する攻撃だから、肉体の一部を飛ばしているようなもの。 こいつを放置すんのは危険だが、そう思ってた割に対策は練っていなかった。 近距離パワー型スタンド並みの力も吸収されて通用しないこいつ相手に、どこまでやれる? 「よりによって貴様か。野放しにすればプッチも厄介に思うだろう。協力は……出来るはずもないな。 遠慮はしない、ここで片付ける」 そー言う奴の表情からは、笑みが見て取れた。 随分とまあ舐めくさってくれるじゃあねーの、えぇオイ? 策がない? なら見つけ出せばいい! とにかく、今は時間稼ぎをするしかないッ! 指先を銃口に変換、発射。 よけられるが問題ない、距離を稼ぐための布石だ。 さて、どうする? DアンGやダービーにやったように、肉片をまき散らす手は使いたくない。 リスキーすぎる。二人ともほぼ動けないという前提があったから出来たことだ。 外側から傷をつけるのは難しい。体液を奴の中にブチ込んで繁殖させ内部から破壊するしかないが、体表に打ち込めば吸収される。 要は、『最初っから内部にブチ込む』しかないわけだ。 それができる箇所はおそらく、口内、眼球、耳とか鼻とか……顔付近に集中してやがる。 ヘヴィったらありゃしねえ。 コロッセオに地下があると知ったのは偶然だったが、最初はラッキーだと思った。 遺跡のように入り組んだここなら奇襲しやすい。 だが、強い奴に対してあれこれと策を弄するのは無駄だとさっきので思い知らされた。 位置が位置だ。狙いを定めて、真正面から突っ切るしかねえ! 「どうした、鬼ごっこは終わりか? それとも、このエシディシに命乞いでもするつもりか?」 駅のホームみてーなところまで走って立ち止まったあたしに、そう言って蔑視しやがった。 地下鉄が通ってるんだろうかとかムカつくヤローだとか考える暇もなく、思考のほとんどを隙を作るための作戦練りに回す。 「一つ聞いていいか? 分からんのだ。貴様は何のために戦う?」 向こうから話しかけてきやがった! 隙を得るための手口か? いや、あの圧倒的なパワーの持ち主がそんなことをするとは思えない。追いかける速さも加減したようだから。 だからあたしは深く考えず、正直に率直に答えてやった。 「あたしはあいつを……徐倫を生き残らせなきゃならねーんだ! この命に代えても! テメーみたいな化け物に徐倫を殺されてたまるか!」 ★ 「一つ聞いていいか? 分からんのだ。貴様は何のために戦う?」 言うなればこれは最後通告。 このままならわけなく勝てるだろうから、協力するかどうか一応聞いておく。 目的が一致するなら、プッチの頼みを無下にするわけにもいくまい。 「あたしはあいつを……徐倫を生き残らせなきゃならねーんだ! この命に代えても! テメーみたいな化け物に徐倫を殺されてたまるか!」 そんな思惑つゆ知らずといった感じで、聞けたのは随分と身勝手な理由。 「安っぽい感情で動くんだ――なッ!」 男に接近を許してしまった。構えた銃口を顔に向けられる。 回避は間に合わない。 「直を――喰らいやがれ!」 不意を突かれたのは驚きだが、口なら吸収されないとでも思ったか? 吹っ飛びはしたものの、喉の傷は浅い――何ィ! 喰い……破られる!? 「勝った! 臓物をブチまけなァァァ――――!」 ★ 確かに打ち込んだはずだ、途中で吹っ飛んだから二発だけだが確かに。 即、分裂も命令した。なのに、何で。 「何で! フー・ファイターズが死滅してんだよォォォ――――!」 慌てふためくあたしとは対照的に、筋肉達磨は落ち着きはらってペッと掌に血反吐を吐きだす。 「こんなものに……こんな塵に匹敵する微小な生物に喰われかけるとはな。反省しなくては」 かろうじて生存しているフー・ファイターズのことだろう。 熱した鉄板に水滴を零したような音がして、そこで完全な死滅を確認した。 「もし俺の流法がこの生物を焼き殺せる「炎」でなかったなら。「炎」でなかったならッ! どうやってあの攻撃を防いでいたか分からなかったぞ……」 奴の唇から血液垂れる。そこから煙を帯びて皮膚が焼けていた。 奴の能力は、フーファイターズを焼き殺すほどに血液の温度を上昇させる能力らしい。 肉体を取り込むこととの関連性は見出せないが、分かったことはある。 今のあたしじゃ、コイツに勝てない。 「さっきから気になっていた。鉄塔の側にいた女と、貴様の動きは酷似している。 変装か……あるいは、肉体を乗っ取ったのか?」 冷や水を浴びたようにピクリと反応してしまう。 「図星のようだな。フン、とんだお笑い草だ! 他人の肉体を乗っ取り、あげく、ジョリーンだったか? そいつ以外は内側から喰い破る。 貴様が俺を化け物と言えた口か?」 反響して聞こえたのは、地下だからというだけじゃあないだろう。 「その人にも化け物にもなれぬ出来損ないの頭で考えろ。ジョリーンが貴様の助けを必要とする弱者なら間もなくくたばる」 「徐倫を侮辱するのはやめろ! それに、これはあたしが勝手にやってることだ!」 「だが俺は言い振らすぞ?『ジョリーンの仲間であるフー・ファイターズは殺し合いに乗った』と」 事態は、あたしが死ぬより最悪の方向へ向かってしまった。 もしそんな話が流布すれば、徐倫は集団から敵視され、疎外されるだろう。 そうなれば彼女の孤立は必至。生き残れる可能性は激減する。 「徐倫は同行者から嫌われるだろうな。除け者にされ、弁明すら聞いてもらえないのが目に見える」 「黙れ! 徐倫は、徐倫は」 「必死に孤独に耐えたところで、噂を聞いた誰かが始末しにかかるだろう。 それとも、耐えかねて自殺するのが先か?」 「黙れ黙れ黙れ!」 壊れたテープレコーダーのように必死に言葉を繰り返す。 耳もふさいでいるが、それに合わせて奴は声量を上げてきた。 守りたかった徐倫が殺される。湧き出るそのイメージを塞き止めたい。 だが、奴の暴言が途切れることはなかった。 「その時の死に様はどんなものなのだろうな? 刺殺? 絞殺? 銃殺? 圧殺? 自殺なら服毒というのもあるかも知れんなあ?」 「黙れ……黙れ……死なせて、たまるか……」 そして、自分でも分かってたから恐れていた、最も耳に入れたくない一言を―― 「いいや、ジョリーンは死ぬ。だが忘れるな、徐倫を殺したのはお前だ。全て貴様のせいだ」 ――聞いた途端、あたしはキレた。 「黙れエエエエエエエエエエエエ!」 ひたすらに、残像が見えてくるほどに拳を振るう。 だが見切られる。左腕をつかまれる。 「動揺して安易な攻撃を繰り出したなあ~~~!」 拳撃が止まった隙を突かれ、野菜を切るように容易く、右手首が手刀で切り離される。 ボールみたいに宙を舞う手首。 「そしてお前は『得意顔してしゃべんなこのウスラボケが』と言う!」 「得意顔してしゃべんなこのウスラボケ――がッ!」 顎を蹴とばされた。舌を噛んだ。 受け身を取れずに倒れる。自然と奴に蹴られた脚を見ることになる。 切られたはずの右手首が一体化していた。 「右手からまた撃ってくると思っていたぞ。狙いは耳の穴か?」 完全に、読まれていた。 血液が駄目だったから、リンパ液で満たされた耳内部の組織、蝸牛を狙うという策を。 F・F弾を、飛ばされた右手からブッ放してやろうとしたことを。 空中で変化する指を見逃さなかったのだろう。 奴はあたしを蹴ることで右手を操作する集中力を損なわせ、同時に振るった足で手首を吸収しやがったのだ! 「絶望のォ~! ひきつりにごった叫び声をきかしてみせろォ~~~!」 起き上がっていないあたしに容赦なく向かってくる。 チクショウ……ここまでなのかよォ……! ★ 戦略的撤退を取った俺ってえらいねえ~~~。 『セト神』は解除さえされなければ無敵の能力なんだからな。 ん? ここに来る以前子供化したポルナレフに追い詰められた? そんなこと言うのはえらくないね。 北上した俺の目に留まったのはコロッセオ。 目立つ施設だから何となく向かってしまったんだろう。 足が見つかった余裕もあって、内部の捜索をし始めたんだよ。 盗られたらまずいから、バイクは目立たないところに隠したけどな。 そしたらなんと、地下への隠し通路を見つけたんだよ! 俺ってばますますえらいねえ~~~。 真実の口が蓋になってたなんて驚きだぜ。 んで、喜び勇んで侵入開始したってわけだ。 遺跡みたいな内部を探検してると、途中で近代的な場所に通じた。 いや、何か騒がしい音がしてたからその正体を知りたかっただけなんだぜ? それに関わろうなんて微塵も思わなかった。 だが、生まれてこの方、あれほど自分の選択と幸運に感謝したことは無かったね。 「ダッ、ダァービィー!」 感動の再会ってやつだ。 背負ってた女が居ないが、この際どうだっていい。ダービーに会えただけで良しとしよう。 しかし緊急事態だ。 俺がダービーを見つけて数秒後、奴の右腕が吹っ飛ばされた。 誰がやったって? 一番会いたくなかった筋肉野郎だよ。 何か叫びながらニヤついてやがる。おぞましいったらありゃしねえ。 関わりたくないし今すぐにでも逃げちまいたい。だがこれはチャンスなんじゃあねーの? ここでアメリカンコミックのヒーローよろしくジャジャーンと助太刀に入れば、 ダービーの信頼が得られるわ、危険人物を無力化できるわいいことづくめ。 こーいうのは大抵リスクが付きものだが、あのデカブツはこっちに背中を向けてっから気付いてねえ。 ジョセフみたく見た目ジジイじゃあねえし、影に2、3秒触れさせればイジメ甲斐のある子供に変えるには十分。 そもそもダービーがやられたら、次にやられるのはこの俺だろう。元々危険なのは変わりあるめえよ。 そうこう考えてるうちに蹴りがダービーの顎にモロに入る。こりゃあ今すぐ行かねえとダービーがやられる! 意を決してスタンドを発現、最大限影の面積を拡張し走り出した。 ★ 「ねぇねぇディアボロくぅ~ん、いい加減冷房を切りに行きたいんですけどお」 「俺とこいつを危険に晒してもいいと? 三人一緒に行くのも論外だ。 俺かお前がこいつを服ごと抱えて行く必要があるから、下手をすれば咄嗟の事態に対処できない」 ジョセフの提案を退ける。 スタンド攻撃のせいで、俺はスタンドが使えなくなり、音石に至っては動きまわることすら難しくなった。 たくましい肉体を取り戻し、奇妙な術が使えるジョセフはともかく、俺と音石は戦力として計上できない。 籠城を選択した一因はそこにある。 消極的だが、選択そのものは間違っていないからこそ、あの時ジョセフは反対しなかった。 いかなる場合においても安全に振る舞うことを優先せねばなるまい。 「もっとも……裸のままこいつを抱えるのも勧めんがな」 「分かってるって。そんなことして突然姿が元に戻った日にゃあ目のやり場に困るってーの。 そもそも、冷房を切りたいのはこいつが震えてっからだ」 「うー……」 ジョセフが指差したのは、元々着ていた衣服にくるまっている音石。 ぶかぶかで見に纏えたものではないから脱いだようだが、寒さには耐えかねるのだろう。 唇は既に紫色、未発達の歯をカチカチ言わせて縮こまっている。 これくらいの年の子供には酷な環境だ。別に憐れんでいるわけではないが。 確かにこれが原因で、元に戻った時音石の肉体に異常が出ては困る。 従わせる利用相手が使い物にならなくなるわけだからな。 しかし、自分の命には代えられない。このディアボロ、何より危険は避けたいのだ。 「それに目の容態はどうなんだ? ほれ、水だ」 デイパックから飲料水を取り出し、ジョセフに渡す。 いい加減処置を施さないと、本当に役立たずになるからな。 「おお、わりいな」 「自分で言ったことだろう、目を洗う時間をくれと」 無視するように、バシャバシャと音を立てて目を洗うジョセフ。 この様子だと、あの問いも忘れているのではないか。 『娘がいると言っていたな。お前はどうしていた? この世界に娘も来ていたら……もし死んでいたら』 返答次第では見限る。だがこいつはそれを知ってか知らずか、今の今まで回答を保留にしてきた。 襲撃者、アレッシーとやらの対処に追われたかもしれないが、答える時間だけなら電車内でもあったはず。 しかし、娘か。 血縁関係を表すだけなら意味は一緒だが、ジョセフと俺のそれは違う。 娘との繋がりを断ち切ろうとした俺とは対照的に、ジョセフは――少なくとも当初は、身を案じていたのだろう。 そう、娘トリッシュは死んだ。荒木が嘘をついたというのは無いな、いずれ裏が取れるし、何より感覚で分かる。 ちらと音石を見る。不思議そうに首をかしげたので頭をなでてやる。 血縁上、トリッシュの母で俺の妻に当たるドナテラ・ウノとの出会いなど思い出せない。 娼婦のような感覚で見ることは無かったし恋もしたが、俺にとって愛は無用だったから。 組織の頂点に立とうとする身において、直接的な繋がりを持った者は邪魔者でしかなかったから。 だがジョルノに敗れた俺は、かつてのような絶頂を得ることはできないだろう。 それどころか度重なる「死」で精神は摩耗し、他人に無様な姿をさらしても何も思わなくなった。 平穏の中を生き長らえたところで、俺には何もない。 家族も、意地も、信念も、地位も、名誉も、愛も。 断ち切るべき因縁が残されているが、それを絶やすのは生きるための手段であって目的ではない。 死にたくないとは言った。だがそれならば俺は一体何のために生きている? そこで思考が堂々巡りに入ったから、俺は気付けなかった。 あれほど寒がっていた音石が、生まれたままの姿でつっ立っていたことに。 投下順で読む 前へ 戻る 次へ 時系列順で読む 前へ 戻る 次へ
https://w.atwiki.jp/shousetsu/pages/380.html
何時までも 此処に居られないことは 俺は解ってたのに 恐くて先延ばしにしてた お前等との別れは 俺だって悲しいのに 何でお前等泣くんだよ お前等は笑えよ お前等は手を振れよ そんなんだから 先延ばしにしちまったんだろ …まあそんな事言っても どうにもならないのは 俺も解るから 知ってるから だから言うぞ 「サヨナラ。」
https://w.atwiki.jp/akatonbowiki/pages/6480.html
このページはこちらに移転しました 嗚呼無常 作詞/234スレ338 作曲/Gno4166、糞食いマシーン 337は茶碗の破片で怪我をした しかし世界は関係無く動き続けるのだ アデュー 音源 嗚呼無常(Gno4166 ver.) 嗚呼無常(糞食いマシーンver) 嗚呼無常(糞食いマシーンver 歌:284スレ248)
https://w.atwiki.jp/mahjlocal/pages/3391.html
読み ああむじょう 正式名称 別名 レ・ミゼラブル 和了り飜 役満(副露) 牌例 解説 2萬・2筒ポン、索子「3345666」の「3-6」待ち。 成分分析 嗚呼無常の81%は媚びで出来ています。嗚呼無常の8%は根性で出来ています。嗚呼無常の4%は玉露で出来ています。嗚呼無常の4%は黒インクで出来ています。嗚呼無常の2%はカルシウムで出来ています。嗚呼無常の1%は厳しさで出来ています。 下位役 上位役 複合の制限 採用状況 参照 外部リンク
https://w.atwiki.jp/yukimi0/pages/166.html
――3日後、サムクァイエットの街からコルダミアの街を通る街道を東ユーラシア共和国軍の補給部隊が通過する。 その情報がリヴァイブの元に届けられてすぐ仮面のリーダー、ロマ=ギリアムはリヴァイブ基地のブリーフィングルームに主なメンバーを集めた。 シンやコニール、大尉達だけでなくサイやセンセイ、他にも幾人もの男達の姿が見える。 全員が注視する中、ロマは今回のの情報と自らの方針を示した。 敵の補給線を断つ事は戦略的にメリットが大きい、だから今回敵の補給部隊を叩く、と。 「でもよお……リーダー」 するとそれまでテーブルに頬杖をついて退屈そうにロマの話を聞いていた一人の男が、おもむろに手を上げる。 ラフな金髪に赤いメッシュをした軽薄そうな男。 少尉だ。 一見やる気のなさそうな雰囲気だが、少尉はロマの提案に明確な疑問を差し挟んできた。 「どうにも敵が動きがあからさま過ぎないか?こうも露骨だと、俺には何か裏があるようにしか思えねえ」 「確かにそれはもっともな疑問だと僕も思う。先日の件もあるしね」 先日の件とは、ソラを帰国させるための交渉が実は軍の罠だったという一件だ。 幸いシンの活躍で軍を逆に撃退したものの、確かに罠に嵌った事には変わりない。 当のロマとて危うく命を落とすところだったのだ。 「なら今回は見送るべきかもしれませんね。軍も今度は備えをしっかりしてくるでしょうし、あえて危険を冒す必要があるかと言えば疑問ですから」 少尉の隣で腕を組み静かにロマの話を聞いていた中尉も、落ち着いた口調で異を唱える。 ”動”の少尉に、”静”の中尉。 印象の全く正反対の二人だが、いわんとする意見は同じだった。 ところがそんな二人にそばに座るシンは威勢よく言い放つ。 「いいじゃないか、罠でも。逆に噛み破ればいいだけだ」 「オイオイ、シン!オマエな、そう気安く言うが、この間が上手く行ったからといって今度も上手く行くとは限らねえんだぞ!?」 「危険は承知さ。だがこのまま敵の罠の影に怯え続けるなんざ、俺はまっぴらゴメンだね」 「なんだぁ?俺がビビってるとでも言いたいのか?」 「さあね」 「テメエ……」 シンの挑発に少尉の眉間が歪み、二人の間で視線が鋭く交錯する。 一触即発。嫌な感じ。 ところが周囲は特に驚くわけでもなく、何故かニヤニヤと二人の行く末を見守っている。 「ちょっと、アンタ達!今は作戦会議中よ、下らないケンカは後にしてよ」 「……わーったよ」 「チッ」 コニールに水を差さされた二人は、再びロマの方に向きなおす。 「大尉はどう思う?」 ロマはそばに立つ咥え煙草をした大柄な黒人男性――大尉に話を向ける。 大尉は一口目の煙を吐き出すと、重く静かに自分の見解をリーダーに述べた。 「……確かに俺も少尉と同意見です。ですがそれでも俺は今回は敵の襲撃に踏み切るべきだと考えています」 ブリーフィングルーム内が一瞬ざわめき立つ。 しかし大尉は一顧だにせず続ける。 「確かに軍はソラさんの一件で俺達を罠に嵌めました。そして今回のあからさまな補給作戦。素人目に見ても誰だって罠だと考えるでしょう。しかしそこが落とし穴です」 「というと?」 「これは軍と俺達の心理戦でもあるんです。つまり敵の狙いは、あえて目立つように動く事で俺達を疑心暗鬼にさせ、今後の行動を制限する事にあると俺は睨んでいます。敵が動くたびに罠だと疑えば、俺達は満足に身動きが取れなくなるし、今後の作戦に支障が出るでしょう。しかも仮に罠にかかれば、そこで俺達を討ち取ればいい。そこが軍の狙いだというわけです」 「なるほど」 仮面のリーダーは静かに頷いた。 「つまり軍にとってはどっちに転んでも自分達の手のひらの中、という訳ですね」 「そういう事だ、中尉。だからこそそれを打ち破る価値がある。罠を仕掛けておきながら逆に返り討ちに会えば、今度は軍が手詰まりになる。今後の主導権を俺達が握る事になるんだ」 「……なるほど、確かにその意味では重要な一戦かもしれません」 上官の言葉に中尉も納得する。 そして大尉はブリーフィングルームに集まった全員に呼びかけた。 「俺はあえて敵の策に乗ってみようと思う。その上で打ち破る。皆、どうだ?」 「大尉がそこまで言うなら異存無しですよ。奴等のいいようにされるのは、俺も癪に障りますから」 少尉が声を上げる。 それに続いて他の男達からも「いいぞ、一戦やってやろう」「おーし、奴らを返り討ちにしてやろうぜ!」等と同意する声が次々に続いた。 「……よし」 作戦決定だ。 大尉はロマに向かって無言で頷く。 ロマも同じ様に返し、現在入っている軍の情報をコニールに確認する。 「コニール。サムクァイエット基地に新たな動きはあったかい?」 手元の資料をパラパラとめくりながら、コニールはロマに説明する。 「協力員の定時連絡によると、今のところ変わった動きはないようね。定時訓練、午前と午後の定期便もいつも通り。今回の作戦のために新たな増援や装備を導入したという情報も今のところないわ」 「コルダミアは?」 「同じ。駐留部隊、現地警察ともに目立った動きは見られないわね」 「そうか……。では今回の敵の行動が罠だという前提で作戦を組む。出動は3日後。敵の補給部隊と併せて増援部隊を一気に叩く!皆、いいね?」 「「「「おう!!」」」」 リーダーの声に男達は威勢よく立ち上がり各自持ち場に戻る……はずだったのだが――。 ところが今日はまだ続きがあった。 「コニール」 「?」 不意にシンがコニールに向かって何かを投げ渡す。 シンが腕に嵌めていたAIレイだ。 《始まるぞ》 聞きなれた電子音声。 それがゴングとなった。 バキッ!! 鈍い打撃音が重なって響く。 両者同時に顔面への一撃。 ブリーフィングルームのど真ん中で、たちまちシンと少尉の殴り合いが始まった。 「あーあ、終わった途端これだわ」 はぁっとコニールはため息をつく。 リヴァイブ名物『シンと少尉の一本勝負』。 この二人が衝突すると拳と拳のド突き合いになるのが、いつものパターン。 メンバーにとってはもはや見慣れた光景だ。 しかしそうは分かっていてもコニールは頭を抱えてしまう。 そんな彼女をAIレイがよく分からない慰めをする。 《気にしたら負けだ。俺は気にしない》 一方、呆れるコニールを他所に周りの男達は盛り上がるばかりだ。 「おい、どっちに賭ける?」 「少尉に200」 「俺も少尉に100!」 「アーガイル整備班長はどうします?」 「そうだなあ。僕はシンに200って所かな」 するとサイの横から幼い声。 「俺、俺も!シンに50!」 「シゲト……。お前いつの間にここに潜り込んだんだ」 「ヘヘっ」 少年はバツが悪そうに、ペロっと舌を出した。 二人の喧嘩を肴に、賭けに興じて盛り上がるのはロマ達も同じ。 「確か今までの戦歴は15勝13敗4分けで、少尉が勝ち越してるんじゃなかったか?」 「ええ、そうです。大尉」 「……なら、俺は少尉に1000だ」 「大尉と同じく、僕も少尉に2000賭けるよ」 「……では、私はシンに4000です」 「おお~。大きく出たな中尉。あとで後悔しても知らんぞ」 「溜まってた僕の中尉への貸しが、やっと減らせるねえ」 「さて……、それはどうだか分かりませんよ、リーダー」 ドタバタ騒ぎに野卑な声援を送る男達。 毎度の事とはいえコニールはすっかり呆れかえってしまう。 「ったく毎度の事だけどさあ……。どうしてこうウチの男共はバカばっかなのかしら」 一人愚痴る彼女に黙って見守っていたセンセイが声をかける。 「いいじゃない。恒例行事だと思えば何て事はないわよ」 「でも、センセイ。大怪我でもしたらどうするんですか!?出動に差し支えますよ」 「大丈夫よ、コニール。その辺の加減はあの二人も十分分かってるから。それにね、私はこう思うの。こんな穴倉の中で溜め込んでるよりは、こうして発散した方がよほど健全だってね。まあ青春の殴りあいってところかしら」 微笑むセンセイにコニールはどうにも浮かない顔を見せる。 今ひとつ納得できないのだろう。 「う~ん、そんなもんですかねえ?」 「そんなものよ。じゃあ、私は消毒液と絆創膏の準備でもして医務室で二人を待ってるわ。頃合を見て、適当なところで切り上げなさいって二人に言ってあげてね」 「はあい」 ブリーフィングルームを去っていく白衣の女性を見送ると、コニールはシン達の喧嘩に威勢のいい声援を送る男達の背に向かって、小さく呟いた。 「……ホント、ウチの男共はバカばっかなんだから」 ――三日後。 三機のシグナスの後をダストがついていく。 モビルスーツが歩く度に重低音が大地に響いた。 シンと大尉達はそれぞれのモビルスーツを駆り、予定移動ポイントに急いでいた。 目指すポイントは、サムクワァイエットの街とコルダミアの街を結ぶ二本の街道と等距離に位置する、ちょうど中間地点にあたる場所だ。 この二つの街を結ぶ街道は二本あり一方は直線路、一方は蛇行した迂回路になってる。 しかしこの二つのルートのうち、どちらのルートを補給部隊が通るのかまでは分からなかったので、中間地点で待機する事になったのである。 敵、補給部隊を発見のために、先に出発したコニール率いる歩兵部隊は二つに分かれた。 直線路をAルート、迂回路をBルートとし、それぞれ足止め用の罠を仕掛けてる手筈になっている。 移動ルートを特定し次第、罠で敵部隊の足を止め、大尉達のモビルスーツ隊が来るまでの時間を稼ぐのだ。 もちろんこれには敵の企みを暴露する、という目的もあった。 《目的地まであと16分。現地ポイントに到着後、各機合図が来るまでそのまま待機だ。いいな》 大尉の指示が通信器から飛ぶ。 補給部隊のルートが特定出来ない以上、連絡が来るまでモビルスーツは無闇に動くべきでは無い。 それ故にシン達は敵部隊に関知されない位のポイントで隠れ、歩兵部隊の指示を待つのだ。 ダストを自動操縦に任せ、シンはモニタに映る様々なデータを確認していく。 不意にレイがシンに話しかける。 《シン、分かっていると思うが………》 「無茶するなってんだろ。わかってるよ」 シンの声に怖れはない。 誰が相手であれ敵ならば何時かは殺り合う相手。 ただそれだけの事。 《ならいい。油断さえしなければ負ける事もないだろう》 「何だよ、戦術的なアドバイスは無しか?」 そんな会話に、突然大尉が割り込んでくる。 《俺が戦術考えるんじゃ不満か?ええおい》 《戦争慣れ、という意味でなら我々は君よりも上だよ。シン》 《前回はあっちからの奇襲だったからな。こっちから売る喧嘩なら任せとけ。テメーに喧嘩の売り方を教えてやるよ》 中尉、少尉も次々に会話に参加する。シンは呆れたように呟いた。 「どいつもこいつも戦争大好き連中だな……」 不意に妹――マユの事を思い出す。マユは今の俺を見て、どう思うのだろうか、と。 (……軽蔑されるに決まってるじゃないか) どう考えてもそうだろう。 マユは、戦争などと無縁な存在だった。そういう存在が戦争で死ぬのは間違いなのだ――そうシンは思う。 (俺みたいな奴は、戦争やってるしかないんだろうけどな) 初めて人を殺した時は、何時だったろう。あまり、覚えていない。覚えていないほど人を殺したのか――自分でも嫌になる考えだ。 (俺は、いつまで人を殺すんだろう……) 戦場に出る前、いつも考えてしまう。 こんな事何時まで続くのか。 誰も助けてくれはしない、それなのに何時の間にか選んでしまった地獄の道。 今では笑って人殺しが出来る程、自分は染まってる。 光の中に居るはずのマユが、今の暗闇にいる血塗れの自分を許すわけが無い――そう思う。 「許して貰える訳、無いよな……」 ついつい口をついて、泣き言が出る。 次の瞬間、シンは直ぐに後悔した。 その呟きをレイはおろか、他の3人も聞いていたのだ。 《なんだなんだオイ、女に振られた事でも思い出したか?》 《女性に嫌われるのは辛い事ですが、ね。……戦場では考えない事です》 《イヤちょっと待て。それはつまりは珍しくシンが色気づいたって事だろ?よっしゃ、今度街に下りたら俺がいい女紹介してやるよ》 《しかし少尉の趣味がシンの嗜好に会いますかね。私は少々疑問に感じます》 《そりゃどーゆー意味だよ!?中尉!》 人を肴に三人は好き勝手に言い募る。 もはや完全に魚を見つけた漁師状態である。 「好きに言っててくれ……」 大尉が茶化し、中尉がまとめ、少尉が混ぜっ返す――いつ終わるともしれない他愛無い会話。 シンはそれを聞き流しながらふと不運にもリヴァイブの虜になった少女、ソラの事を思い出した。 (マユが大きくなってたら、ソラみたいになってたのかな) 意外と口うるさくて、直ぐ泣いて。 その癖、突然怒り出して、今度は落ち込んで。 その度にシンはマユの扱いに困っていた事を思い出す。 ここ最近ソラの扱いでも困ったからだろうか。 マユと同じように。 《もうすぐポイントに到着するぞ。各機準備しろ》 さっきとは違う鋭い大尉の声。 生と死の交わる戦場の匂いが漂う。 一人会話に参加しなかったレイが、冷静に伝える。 《自動操縦を切るぞ。いいな、シン》 「ああ。任せろ」 コントロールスティックを握るシンの手に機体の力感が伝わる。 ダストがシンの手足になった瞬間だ。 ポイントに着くとシン達モビルスーツ隊は全機足を止め、その場に駐機させる。 あとはコニール達の指示待ちになる。 その頃――。 Aルートに張ったコニールの部隊は街道を望む丘の影から、道路を進む大型車両の一団を発見した。 大小合わせて十数台のトラックや大型トレーラーが列を成して悠然と街道を走っている。 「来た来た……」 双眼鏡を眺めながらコニールは、獲物を見つけた獣のように舌舐めずりをした。 「目標発見。B-15、WM。そう通信して」 WMとは西南方向の略である。 「了解!」 彼女の部下の一人がジープに積んである通信機に走る。 「さて……、仕掛けるわよ」 コニールはそばにいた部下に指示を送ると、彼は手元のボックスのスイッチを押す。 すると。 ズズズゥゥン……。 遥か遠くから聞きなれた地鳴りと爆発音が鳴り響く。 街道の真ん中からいくつもの黒煙が立ち上り、補給部隊の車列はたちまち大混乱に陥っていた。 ――今、開戦の狼煙が上がったのだ。 「……また戦争になるんですか?」 医務室の診察椅子に座るソラの口からこぼれた問いに、ふとセンセイのカルテを書いていたペン先が止まる。 ソラは一日一回、医務室に定期健診に来る事になっている 軟禁生活のストレスから体調を崩していないか検査するためだ。 もちろんこれはカウンセリングとしての意味もあって、適当に話し相手を用意する事で、ソラの心理的孤独感を和らげようというのだ。 こうした処置で彼女が大人しくしてくれれば、不安要素は減るという観点からもリヴァイブの益になるとロマは考えていたからだ。 センセイはペンを置いて、ソラの方に向いた。 「どうして戦争が起きるって思ったの?」 「……ここに来るまでほとんど人を見ませんでしたし、誰もいない感じだったんで……。それに……」 「それに?」 「シゲト君が急に来て、『シンがAIレイを必要なんだって』って言ってレイさん持って行っちゃったんです。だから……」 うつむいたまま、たどたどしく答えるソラにセンセイは小さな笑みを浮かべる。 「ソラさんって勘が鋭いのね。……そうね、戦争よ。それも、今回はこちらから仕掛けるわ。」 こちらから仕掛ける、という言葉にソラは心臓を鷲掴みにされた様なショックを受ける。 息が詰まるような感覚が支配していく。 何を言うべきなのか、言葉が見つからなかった。 「……軽蔑する?」 心を見透かしたような一言。 胸に刺さる。 何も言えない。 しかしソラは黙ったままではいたくなかった。 どうしても言わなきゃいけない、そう彼女の心が訴えていたから。 喉の奥から搾り出すようにして、ソラはセンセイにそれまで溜まっていたものをぶつけた。 「……戦争する人達は、おかしいです……!しかも好きこのんでなんて。あの人だって、何時も喜んで戦ってて……」 答えの出ない疑問がソラの中を駆け巡る。 何でだろう。 どうして戦わなきゃならないんだろう。 私は何でここに居るんだろう。 どうしてこんな所で。 本来いるはずのない場所にいる自分が、こんな話をしている。 ”戦争”という言葉、世界に翻弄されているソラがそこにいた。 センセイは少しだけ考え込むように天を仰ぐと、ふっと小さく漏らした。 「そうね……。戦わずにすめばそれに越したことはないわね」 「なら、どうして……!?」 「……誰も、望んだように生きるのは難しいのよ。戦いたくなくても戦わざるを得ない、戦いたくなくても明日を生きるために戦わないといけない場合があるの。私達はこのコーカサスという土地を人々がもっと自由に、もっと幸せ、もっと人間らしくに生きられる土地にしたいの。でも東ユーラシア共和国の政府は外国との関係を優先するばかりで、ここに生きる人達の事なんて見向きもしない。そのために毎日たくさんの人が飢えたり、凍えたりして死んでいる。そういうのを一日も早く止めたいのよ」 「だからって、戦争なんかしなくても良いじゃないですか……!」 「戦う事でしかで世の中を良くする術がなければ、人は戦うものよ。だから戦争は起こるのよ」 「それは詭弁です!戦争なんかしたら皆困ります!」 それまでうつむいていたソラは顔を上げキッと睨む。 だがそんなソラにセンセイは微笑みを返す。 「やっと上を向いたわね」 「……!」 「ソラちゃん。私の考えを押し付けたくないから私から貴女に答えを言うような事はしない。勿論貴女が疑問に思い、質問してきた事にはできるだけ正確に答えるようにするわ。……でもね、これだけは覚えておいて。”正義なんてものは、人の数だけ有る”の」 「私が、間違っているっていうんですか!?」 一層ソラは声を荒げてしまう。 しかしセンセイは優しく彼女を見つめたまま静かに諭す。 まるで母のように、ソラの全てを包むように。 「いいえ、貴方は間違ってなんかいないわ、きっと本当は誰も間違っていないのよ。でもね、結果として”間違っていた”と言われるのが世の中なの。ソラちゃん、もっと世の中を知りなさい。私達が貴女の思っている”正義”では無かったとしても、いつか貴女にもきっと解る時が来る。――人は、正しい事だけでは生きて行けないという事が」 「……だからって悪い事でも、……何をしてもいいっていうんですか?」 「違うわ。”どんな状況でも生きる努力をしなさい”という事よ。そうすれば今の貴方に見えなかったものがきっと見えてくるから。そのためには、貴女は俯いていては駄目。辛くても、見上げなさい。人は、前を見ないと周りを見る事の出来ない生き物なのだから」 暖かい眼差しのまま告げるセンセイの言葉に、ソラはふと孤児院で一番好きだったシスターの言葉を思い出していた。 ――ソラ。どんな時でも、空を見上げてごらん。辛い時、悲しい時……どんな時でも。きっと空は、ソラの味方。何時もソラを助けてくれるから―― (……どうして……。どうして今になってあの時教わった言葉が頭に浮かぶのかしら……) それきりソラは黙り込んでしまう。 今度はセンセイも話しかけなかった。 《B-15、WMか。……ちっとばかり面倒な事になるな》 《予想算出襲撃ポイントでは、遮蔽物がありませんね。相手からも丸見えです》 コニールからの通信を受けやいなや、シン達は全速力で目標の政府軍補給部隊のいる地点に向かっていた。 敵は荒野をまっすぐに突き抜ける街道のAルートを選んでいたのだ。 そこは周囲に緩やかな丘が少々ある事を除けば、満足な遮蔽物もなく見晴らしもいい場所である。 攻めにくく、守るに適した絶好のポイントであった。 すぐに大尉は戦術の修正をし、中尉が直ぐにそのフォローを開始する。 《部隊を分散させるしかないか。……よし、まず少尉と俺は後ろから攻め込んで不意を付く。シンは先行して敵前面にて待機。ダストはこの中で一番足が早い。混乱に乗じて輸送部隊を仕留めろ》 《私はどうします?》 《中尉、お前に指示は必要ねぇだろうが。俺たちの後ろで適当にぶっ放してろ》 《了解です》 そんなやり取りの合間に少尉のボヤキが挟まる。 《やーれやれ、またシンがいいとこ取りですかい》 《そうぼやくな。先陣の俺達が敵を燻り出さなければこの作戦の意味は無い。忘れたか?俺達はわざと敵の罠にかかりに行くんだぞ。それとも少尉、いいところを見せたければ一人で突っ込んでみるか?》 《んにゃ、御免こうむります。俺は、まだ死ぬつもりはないんで。シン、お前が後詰だ。ヘタ打ったら承知しねーぞ!》 「ああ、わかったよ。任せろ」 少尉の軽口にシンはフッと笑みを浮かべる。 つくづくこの三人はチームワークが良い。 (俺達も、こうだったら――少しは違ってたかもな) 自分、レイ、ルナマリアの三人――自分達ではチームワークが取れていると思っていた。 だが、今のこの三人を見ていれば自分達が如何にバラバラだったか良く解る。 一対一なら勝てると自負していたがチーム戦、もしレイとルナマリアが居てチームを組めたとしても勝てる気がしなかった。 (若かった、って事か) シンは首を振って考えを振り払う。 今は思い出に浸っている時ではない。 「コルダミアに駐留してる政府軍はどうする?奴等が増援に来たらやっかいだぞ」 頭を切り替える意味でシンは大尉に聞いてみた。返事は直ぐに帰ってきた。 《現地の部隊に”花火”を上げさせるよう、とっくの昔に指示を出してる。今頃、政府の駐留部隊はそっちの騒ぎで手一杯だ。……俺の指揮にケチ付けるなんて百年早いぞ》 ニヤリと笑う大尉――慣れない事は言うものでは無い、と目が語っていた。 《シンは戦略は赤点だった。許してやって欲しい》 レイにまで言われる始末である。 ともあれ、シン達は動き出した。 シンの心には不安は無い。それは、確かにこの三人が居る事の安心感も手伝っていた。 ――待機していた場所から約15分後。 遠くに数条の黒煙が見える。 目指す街道についたのだ。 大型のトレーラー群がダストのモニタにも視認出来る。 すでに大尉たちはシンと別れ、それぞれ配置についている。 シンは補給部隊の進路方向から、大尉たちは後方から攻める手はずになっている。 あとは攻撃の火の手が上がるのを待つばかりだ。 《概ね予定通りだな。……シン、手筈は覚えているな?》 すさかず冷水を浴びせるレイにシンは渋面になりながら返す。 「大尉達が攻撃を開始したら、前面に展開すりゃ良いんだろ?」 《まあ、そうだ。どの道順序はこの場合あまり関係ないが……恐らく大尉達はシンへの負担を少しでも軽減してやろうという腹積もりなのだろうな》 「お優しい事で」 口では捻くれた事を言っているが、シンの顔は嬉しそうだ。 信頼出来る仲間――シンが最も求めていたもの。 その上、背中を安心して預けられる存在となるとそうはいないからだ。 そんな仲間と戦う、これほど嬉しい事は無い。 《シン、もう少しスピードを上げろ。このまま併走しても意味が無い。この距離なら発見されても有効打はどちらも打てんからな。発見される危険性を憂慮するより、相手方の援軍に寄る挟撃こそ避けるべきものだ》 「OK、レイ」 シンはダストのコンソールを操作して脚部ホバーエンジン及びローラーユニットを起動、ダストの地上最速形態である“ローラーダッシュモード”に移行する。 砂塵を上げてダストが疾駆し、街道が走る荒野の中に一気に躍り出た。 もう敵補給部隊もこちらを補足しただろう。 だが、シンの心に恐れは無い。 ぺろりと乾いた唇を拭い、シンは凄絶に微笑む。 シンの中の”暗い炎”が今、ちりちりと火花を上げつつあった。 進路を塞ぐように巻き起こった爆発の群れに、街道の補給部隊は騒然としている。 何台ものトラックや大型トレーラーが道を外れ右往左往していた。 しかしガドルはそれがレジスタンスの襲撃の初弾だと気づく。 「全方位警戒!総員、降車戦闘準備!!」 トレーラー群の中程に乗っていた補給部隊隊長チャーリー=ガドルは乗員全員に指示を出す。 囮なら囮として、その役目は果たさねばならない。 その時レーダーを監視していた部下が、敵の来襲をガドルに告げた。 《――左舷十時方向、距離1000!敵モビルスーツ補足!》 補給部隊レーダー担当の士官が声を上げると、ガドルは静かに言った。 「やはり来たか。根回しはしておくものだな」 ガドルはもちろんこの作戦を立案したガリウス司令も、レジスタンス“リヴァイブ”が来るとおおよそ察知していた。 そのためにわざわざ高い金を払って情報屋を買収し、さらに他のレジスタンスを経由するという手間をかけてまで情報を流したのだから。 「今、最も売り出し中のテログループ“リヴァイブ”。叩き潰すのならば、早い方が良い。そのための作戦だ」 そう、ロマが危惧した通り、この”補給部隊の大移動”はリヴァイブを誘き出して一網打尽にする作戦であった。 例え全滅させられなくても、リヴァイブの虎の子と云って良いモビルスーツ部隊に大打撃を与える事が出来ると踏んでいるのだ。 「モビルスーツ隊に迎撃させろ!だが敵は一機とはいえ手練れだ!油断するな!!」 トレーラー群、後方のトレーラーに据え付けてあったモビルスーツ“ルタンド”が次々に起動する。 連合のダガーとザフトのジンを、足して二で割った様なシルエットの巨体が次々に起き上がる。 その数、およそ8体。 砂塵が舞う荒野をダストは更に速度を上げて、補給部隊の車列に向かっていく。 様々な思いを余所に、熱砂は更に熱くなりつつあった。 このSSは原案文第4話「今ここにいる現実」Bパート(アリス氏原版に加筆、修正したものです。
https://w.atwiki.jp/revival/pages/611.html
東ユーラシア共和国コーカサス州のとある街、サムクァイエット。 州都ガルナハンからそう遠くない場所に位置する州有数の都市だが、今この街の人々の心は荒みきっていた。 街には浮浪者があふれ出すばかりで、ストリートチルドレン達は、今日も一人、また一人と死んでいく。 道行く人々の目は、誰もが死んだ魚の様に濁っていた。 今や東ユーラシア共和国のどの街でもそうなのだが、サムクァイエットとてその例外ではなかった。 「今はまだいい。また冬が来れば多くの人が死ぬ」 立て付けの悪い窓が風を受けてがたがたと音を立てている。 東ユーラシア共和国軍サムクァイエット基地庁舎の窓越しから、街を眺めるチャーリー=ガドルは、半ば絶望にも似た思いで、そうつぶやいていた。 そんなガドルに、向かいに座る部下の青年は言う。 「そうならないために、我々はがんばっているんじゃないですか。隊長」 2年前に入隊したばかりの若年兵だ。 その瞳にはまだ生きているものの光が宿っている。 そうガドルは感じる。 こういう青年がいるのだから、この国はまだ捨てたものではない。 だが、同時にガドルは感じる。 今回の作戦にこの青年を連れて行くことは赦されることなのだろうか? そもそも今回の任務は本来、ガドルの部隊が行う類の作戦ではなかった。 ガドル隊は補給部隊だ。 前線の部隊に対する補給を行い、命のつなぐこと。 それが彼らの本来の任務だ。 しかし、今回は違った。 今回の作戦における彼らの役割は「囮」なのだ。 ――補給部隊を囮にして敵をおびき出し、秘匿していた部隊で叩く。 一見すれば正気の沙汰とは思えない任務だ。 通常、戦争において失ってはいけないものが二つある。 教育担当仕官と補給線だ。 教育担当が死んでしまっては新たな兵士を作ることが出来なくなるし、補給線が絶たれては戦線の維持が不可能になる。 いずれに場合も、その先にあるのは死という名の敗北だ。 つまり、ガドル隊は「死んではならない部隊」そのものであった。 そのことにガドルは誇りと責任を常日頃から感じていた。 それは戦争という命の奪い合いのなかで出来る数少ない命を紡ぐ作業だと感じていたからだった。 しかし、命を紡ぐ作業に対する代償は何だったのだろうか? 命を紡ぐものは、やはり命。 それがこの世界が望む代償だった。 ガドルの部下達も数え切れないほど死んでいる。 火薬を満載した補給トラックは簡単な銃撃によって火だるまになる。 炎に包まれながらもだえ苦しむ部下の姿をガドルは一日たりとも忘れたことは無かった。 いや、忘れることは出来なかったというべきだろう。 昨日まで故郷に待つ妻と子供のことをうれしそうに語っていた青年が、自分よりも先に死んでいく。 それがガドルにとっての戦争そのものだった。 (……そろそろ、俺の命が捧げられてもいい頃だろう) ガドルは、そう思って頭をふる。 それは軍人にとって良い考えではなかったが、ガドルは前線で死に逝く兵士達を見送るだけの人生にも飽き飽きしていた。 そんな折、司令部は彼に願ってもない作戦を提示してくれた。 それが今回の囮作戦だった。 ――特攻。 忌まわしい言葉が脳裏を過ぎる。 しかし今回の任務はまさにそれに近い。 もちろん敵を迎え撃つために主力としてモビルスーツ、ルタンドが用意されている。 しかしそれはあくまで敵を倒すためであって、自分達を守るものではい。 「……シュタインベル、君はなぜ今回の作戦に参加するのだ?」 ガドルは目の前の青年――シュタインベルに語りかけた。 「……自分は、この戦いを早く終わらせたいのです。レジスタンスたちによる戦いは、この東ユーラシアを少なからず疲弊させています。この国には今、そんな余裕はどこにも無いんです」 「しかし、そのために危険にさらされることをなぜ選択した?」 「隊長はどうなんですか?」 「自分はロートルだ。代わりはいくらでもきくからな」 シュタインベルの瞳が少し曇りを帯びる。 本当に良い青年だ。 ガドルは素直にそう思った。 「……君はベルリンの出身だったな……」 ベルリン。 あの巨大モビルスーツによって焼き払われた都市。 ここ数年のベルリンの荒廃ぶりは目を覆わんばかりのものだ。 最近は西ユーラシアが統一地球圏連合直轄領になったことにより、少しは好転したのかもしれないが、あの惨劇はこの青年に大きな傷を背負わせたことは想像に難くなかった。 「分かった。早くゲリラを掃討して平和を取り戻そう」 ガドルは自分の言葉の欺瞞に、何とも言えない居心地の悪さを感じた。 しかし彼に出来ることはそれしかなかった。 例え目の前のこの青年の命を捧げてでも、レジスタンスを叩くことしか。
https://w.atwiki.jp/yukimi0/pages/164.html
東ユーラシア共和国コーカサス州のとある街、サムクァイエット。 州都ガルナハンからそう遠くない場所に位置する州有数の都市だが、今この街の人々の心は荒みきっていた。 街には浮浪者があふれ出すばかりで、ストリートチルドレン達は、今日も一人、また一人と死んでいく。 道行く人々の目は、誰もが死んだ魚の様に濁っていた。 今や東ユーラシア共和国のどの街でもそうなのだが、サムクァイエットとてその例外ではなかった。 「今はまだいい。また冬が来れば多くの人が死ぬ」 立て付けの悪い窓が風を受けてがたがたと音を立てている。 東ユーラシア共和国軍サムクァイエット基地庁舎の窓越しから、街を眺めるチャーリー=ガドルは、半ば絶望にも似た思いで、そうつぶやいていた。 そんなガドルに、向かいに座る部下の青年は言う。 「そうならないために、我々はがんばっているんじゃないですか。隊長」 2年前に入隊したばかりの若年兵だ。 その瞳にはまだ生きているものの光が宿っている。 そうガドルは感じる。 こういう青年がいるのだから、この国はまだ捨てたものではない。 だが、同時にガドルは感じる。 今回の作戦にこの青年を連れて行くことは赦されることなのだろうか? そもそも今回の任務は本来、ガドルの部隊が行う類の作戦ではなかった。 ガドル隊は補給部隊だ。 前線の部隊に対する補給を行い、命のつなぐこと。 それが彼らの本来の任務だ。 しかし、今回は違った。 今回の作戦における彼らの役割は「囮」なのだ。 ――補給部隊を囮にして敵をおびき出し、秘匿していた部隊で叩く。 一見すれば正気の沙汰とは思えない任務だ。 通常、戦争において失ってはいけないものが二つある。 教育担当仕官と補給線だ。 教育担当が死んでしまっては新たな兵士を作ることが出来なくなるし、補給線が絶たれては戦線の維持が不可能になる。 いずれに場合も、その先にあるのは死という名の敗北だ。 つまり、ガドル隊は「死んではならない部隊」そのものであった。 そのことにガドルは誇りと責任を常日頃から感じていた。 それは戦争という命の奪い合いのなかで出来る数少ない命を紡ぐ作業だと感じていたからだった。 しかし、命を紡ぐ作業に対する代償は何だったのだろうか? 命を紡ぐものは、やはり命。 それがこの世界が望む代償だった。 ガドルの部下達も数え切れないほど死んでいる。 火薬を満載した補給トラックは簡単な銃撃によって火だるまになる。 炎に包まれながらもだえ苦しむ部下の姿をガドルは一日たりとも忘れたことは無かった。 いや、忘れることは出来なかったというべきだろう。 昨日まで故郷に待つ妻と子供のことをうれしそうに語っていた青年が、自分よりも先に死んでいく。 それがガドルにとっての戦争そのものだった。 (……そろそろ、俺の命が捧げられてもいい頃だろう) ガドルは、そう思って頭をふる。 それは軍人にとって良い考えではなかったが、ガドルは前線で死に逝く兵士達を見送るだけの人生にも飽き飽きしていた。 そんな折、司令部は彼に願ってもない作戦を提示してくれた。 それが今回の囮作戦だった。 ――特攻。 忌まわしい言葉が脳裏を過ぎる。 しかし今回の任務はまさにそれに近い。 もちろん敵を迎え撃つために主力としてモビルスーツ、ルタンドが用意されている。 しかしそれはあくまで敵を倒すためであって、自分達を守るものではい。 「……シュタインベル、君はなぜ今回の作戦に参加するのだ?」 ガドルは目の前の青年――シュタインベルに語りかけた。 「……自分は、この戦いを早く終わらせたいのです。レジスタンスたちによる戦いは、この東ユーラシアを少なからず疲弊させています。この国には今、そんな余裕はどこにも無いんです」 「しかし、そのために危険にさらされることをなぜ選択した?」 「隊長はどうなんですか?」 「自分はロートルだ。代わりはいくらでもきくからな」 シュタインベルの瞳が少し曇りを帯びる。 本当に良い青年だ。 ガドルは素直にそう思った。 「……君はベルリンの出身だったな……」 ベルリン。 あの巨大モビルスーツによって焼き払われた都市。 ここ数年のベルリンの荒廃ぶりは目を覆わんばかりのものだ。 最近は西ユーラシアが統一地球圏連合直轄領になったことにより、少しは好転したのかもしれないが、あの惨劇はこの青年に大きな傷を背負わせたことは想像に難くなかった。 「分かった。早くゲリラを掃討して平和を取り戻そう」 ガドルは自分の言葉の欺瞞に、何とも言えない居心地の悪さを感じた。 しかし彼に出来ることはそれしかなかった。 例え目の前のこの青年の命を捧げてでも、レジスタンスを叩くことしか。
https://w.atwiki.jp/revival/pages/535.html
――3日後、サムクァイエットの街からコルダミアの街を通る街道を東ユーラシア共和国軍の補給部隊が通過する。 その情報がリヴァイブの元に届けられてすぐ仮面のリーダー、ロマ=ギリアムはリヴァイブ基地のブリーフィングルームに主なメンバーを集めた。 シンやコニール、大尉達だけでなくサイやセンセイ、他にも幾人もの男達の姿が見える。 全員が注視する中、ロマは今回のの情報と自らの方針を示した。 敵の補給線を断つ事は戦略的にメリットが大きい、だから今回敵の補給部隊を叩く、と。 「でもよお……リーダー」 するとそれまでテーブルに頬杖をついて退屈そうにロマの話を聞いていた一人の男が、おもむろに手を上げる。 ラフな金髪に赤いメッシュをした軽薄そうな男。 少尉だ。 一見やる気のなさそうな雰囲気だが、少尉はロマの提案に明確な疑問を差し挟んできた。 「どうにも敵が動きがあからさま過ぎないか?こうも露骨だと、俺には何か裏があるようにしか思えねえ」 「確かにそれはもっともな疑問だと僕も思う。先日の件もあるしね」 先日の件とは、ソラを帰国させるための交渉が実は軍の罠だったという一件だ。 幸いシンの活躍で軍を逆に撃退したものの、確かに罠に嵌った事には変わりない。 当のロマとて危うく命を落とすところだったのだ。 「なら今回は見送るべきかもしれませんね。軍も今度は備えをしっかりしてくるでしょうし、あえて危険を冒す必要があるかと言えば疑問ですから」 少尉の隣で腕を組み静かにロマの話を聞いていた中尉も、落ち着いた口調で異を唱える。 ”動”の少尉に、”静”の中尉。 印象の全く正反対の二人だが、いわんとする意見は同じだった。 ところがそんな二人にそばに座るシンは威勢よく言い放つ。 「いいじゃないか、罠でも。逆に噛み破ればいいだけだ」 「オイオイ、シン!オマエな、そう気安く言うが、この間が上手く行ったからといって今度も上手く行くとは限らねえんだぞ!?」 「危険は承知さ。だがこのまま敵の罠の影に怯え続けるなんざ、俺はまっぴらゴメンだね」 「なんだぁ?俺がビビってるとでも言いたいのか?」 「さあね」 「テメエ……」 シンの挑発に少尉の眉間が歪み、二人の間で視線が鋭く交錯する。 一触即発。嫌な感じ。 ところが周囲は特に驚くわけでもなく、何故かニヤニヤと二人の行く末を見守っている。 「ちょっと、アンタ達!今は作戦会議中よ、下らないケンカは後にしてよ」 「……わーったよ」 「チッ」 コニールに水を差さされた二人は、再びロマの方に向きなおす。 「大尉はどう思う?」 ロマはそばに立つ咥え煙草をした大柄な黒人男性――大尉に話を向ける。 大尉は一口目の煙を吐き出すと、重く静かに自分の見解をリーダーに述べた。 「……確かに俺も少尉と同意見です。ですがそれでも俺は今回は敵の襲撃に踏み切るべきだと考えています」 ブリーフィングルーム内が一瞬ざわめき立つ。 しかし大尉は一顧だにせず続ける。 「確かに軍はソラさんの一件で俺達を罠に嵌めました。そして今回のあからさまな補給作戦。素人目に見ても誰だって罠だと考えるでしょう。しかしそこが落とし穴です」 「というと?」 「これは軍と俺達の心理戦でもあるんです。つまり敵の狙いは、あえて目立つように動く事で俺達を疑心暗鬼にさせ、今後の行動を制限する事にあると俺は睨んでいます。敵が動くたびに罠だと疑えば、俺達は満足に身動きが取れなくなるし、今後の作戦に支障が出るでしょう。しかも仮に罠にかかれば、そこで俺達を討ち取ればいい。そこが軍の狙いだというわけです」 「なるほど」 仮面のリーダーは静かに頷いた。 「つまり軍にとってはどっちに転んでも自分達の手のひらの中、という訳ですね」 「そういう事だ、中尉。だからこそそれを打ち破る価値がある。罠を仕掛けておきながら逆に返り討ちに会えば、今度は軍が手詰まりになる。今後の主導権を俺達が握る事になるんだ」 「……なるほど、確かにその意味では重要な一戦かもしれません」 上官の言葉に中尉も納得する。 そして大尉はブリーフィングルームに集まった全員に呼びかけた。 「俺はあえて敵の策に乗ってみようと思う。その上で打ち破る。皆、どうだ?」 「大尉がそこまで言うなら異存無しですよ。奴等のいいようにされるのは、俺も癪に障りますから」 少尉が声を上げる。 それに続いて他の男達からも「いいぞ、一戦やってやろう」「おーし、奴らを返り討ちにしてやろうぜ!」等と同意する声が次々に続いた。 「……よし」 作戦決定だ。 大尉はロマに向かって無言で頷く。 ロマも同じ様に返し、現在入っている軍の情報をコニールに確認する。 「コニール。サムクァイエット基地に新たな動きはあったかい?」 手元の資料をパラパラとめくりながら、コニールはロマに説明する。 「協力員の定時連絡によると、今のところ変わった動きはないようね。定時訓練、午前と午後の定期便もいつも通り。今回の作戦のために新たな増援や装備を導入したという情報も今のところないわ」 「コルダミアは?」 「同じ。駐留部隊、現地警察ともに目立った動きは見られないわね」 「そうか……。では今回の敵の行動が罠だという前提で作戦を組む。出動は3日後。敵の補給部隊と併せて増援部隊を一気に叩く!皆、いいね?」 「「「「おう!!」」」」 リーダーの声に男達は威勢よく立ち上がり各自持ち場に戻る……はずだったのだが――。 ところが今日はまだ続きがあった。 「コニール」 「?」 不意にシンがコニールに向かって何かを投げ渡す。 シンが腕に嵌めていたAIレイだ。 《始まるぞ》 聞きなれた電子音声。 それがゴングとなった。 バキッ!! 鈍い打撃音が重なって響く。 両者同時に顔面への一撃。 ブリーフィングルームのど真ん中で、たちまちシンと少尉の殴り合いが始まった。 「あーあ、終わった途端これだわ」 はぁっとコニールはため息をつく。 リヴァイブ名物『シンと少尉の一本勝負』。 この二人が衝突すると拳と拳のド突き合いになるのが、いつものパターン。 メンバーにとってはもはや見慣れた光景だ。 しかしそうは分かっていてもコニールは頭を抱えてしまう。 そんな彼女をAIレイがよく分からない慰めをする。 《気にしたら負けだ。俺は気にしない》 一方、呆れるコニールを他所に周りの男達は盛り上がるばかりだ。 「おい、どっちに賭ける?」 「少尉に200」 「俺も少尉に100!」 「アーガイル整備班長はどうします?」 「そうだなあ。僕はシンに200って所かな」 するとサイの横から幼い声。 「俺、俺も!シンに50!」 「シゲト……。お前いつの間にここに潜り込んだんだ」 「ヘヘっ」 少年はバツが悪そうに、ペロっと舌を出した。 二人の喧嘩を肴に、賭けに興じて盛り上がるのはロマ達も同じ。 「確か今までの戦歴は15勝13敗4分けで、少尉が勝ち越してるんじゃなかったか?」 「ええ、そうです。大尉」 「……なら、俺は少尉に1000だ」 「大尉と同じく、僕も少尉に2000賭けるよ」 「……では、私はシンに4000です」 「おお~。大きく出たな中尉。あとで後悔しても知らんぞ」 「溜まってた僕の中尉への貸しが、やっと減らせるねえ」 「さて……、それはどうだか分かりませんよ、リーダー」 ドタバタ騒ぎに野卑な声援を送る男達。 毎度の事とはいえコニールはすっかり呆れかえってしまう。 「ったく毎度の事だけどさあ……。どうしてこうウチの男共はバカばっかなのかしら」 一人愚痴る彼女に黙って見守っていたセンセイが声をかける。 「いいじゃない。恒例行事だと思えば何て事はないわよ」 「でも、センセイ。大怪我でもしたらどうするんですか!?出動に差し支えますよ」 「大丈夫よ、コニール。その辺の加減はあの二人も十分分かってるから。それにね、私はこう思うの。こんな穴倉の中で溜め込んでるよりは、こうして発散した方がよほど健全だってね。まあ青春の殴りあいってところかしら」 微笑むセンセイにコニールはどうにも浮かない顔を見せる。 今ひとつ納得できないのだろう。 「う~ん、そんなもんですかねえ?」 「そんなものよ。じゃあ、私は消毒液と絆創膏の準備でもして医務室で二人を待ってるわ。頃合を見て、適当なところで切り上げなさいって二人に言ってあげてね」 「はあい」 ブリーフィングルームを去っていく白衣の女性を見送ると、コニールはシン達の喧嘩に威勢のいい声援を送る男達の背に向かって、小さく呟いた。 「……ホント、ウチの男共はバカばっかなんだから」 ――三日後。 三機のシグナスの後をダストがついていく。 モビルスーツが歩く度に重低音が大地に響いた。 シンと大尉達はそれぞれのモビルスーツを駆り、予定移動ポイントに急いでいた。 目指すポイントは、サムクワァイエットの街とコルダミアの街を結ぶ二本の街道と等距離に位置する、ちょうど中間地点にあたる場所だ。 この二つの街を結ぶ街道は二本あり一方は直線路、一方は蛇行した迂回路になってる。 しかしこの二つのルートのうち、どちらのルートを補給部隊が通るのかまでは分からなかったので、中間地点で待機する事になったのである。 敵、補給部隊を発見のために、先に出発したコニール率いる歩兵部隊は二つに分かれた。 直線路をAルート、迂回路をBルートとし、それぞれ足止め用の罠を仕掛けてる手筈になっている。 移動ルートを特定し次第、罠で敵部隊の足を止め、大尉達のモビルスーツ隊が来るまでの時間を稼ぐのだ。 もちろんこれには敵の企みを暴露する、という目的もあった。 《目的地まであと16分。現地ポイントに到着後、各機合図が来るまでそのまま待機だ。いいな》 大尉の指示が通信器から飛ぶ。 補給部隊のルートが特定出来ない以上、連絡が来るまでモビルスーツは無闇に動くべきでは無い。 それ故にシン達は敵部隊に関知されない位のポイントで隠れ、歩兵部隊の指示を待つのだ。 ダストを自動操縦に任せ、シンはモニタに映る様々なデータを確認していく。 不意にレイがシンに話しかける。 《シン、分かっていると思うが………》 「無茶するなってんだろ。わかってるよ」 シンの声に怖れはない。 誰が相手であれ敵ならば何時かは殺り合う相手。 ただそれだけの事。 《ならいい。油断さえしなければ負ける事もないだろう》 「何だよ、戦術的なアドバイスは無しか?」 そんな会話に、突然大尉が割り込んでくる。 《俺が戦術考えるんじゃ不満か?ええおい》 《戦争慣れ、という意味でなら我々は君よりも上だよ。シン》 《前回はあっちからの奇襲だったからな。こっちから売る喧嘩なら任せとけ。テメーに喧嘩の売り方を教えてやるよ》 中尉、少尉も次々に会話に参加する。シンは呆れたように呟いた。 「どいつもこいつも戦争大好き連中だな……」 不意に妹――マユの事を思い出す。マユは今の俺を見て、どう思うのだろうか、と。 (……軽蔑されるに決まってるじゃないか) どう考えてもそうだろう。 マユは、戦争などと無縁な存在だった。そういう存在が戦争で死ぬのは間違いなのだ――そうシンは思う。 (俺みたいな奴は、戦争やってるしかないんだろうけどな) 初めて人を殺した時は、何時だったろう。あまり、覚えていない。覚えていないほど人を殺したのか――自分でも嫌になる考えだ。 (俺は、いつまで人を殺すんだろう……) 戦場に出る前、いつも考えてしまう。 こんな事何時まで続くのか。 誰も助けてくれはしない、それなのに何時の間にか選んでしまった地獄の道。 今では笑って人殺しが出来る程、自分は染まってる。 光の中に居るはずのマユが、今の暗闇にいる血塗れの自分を許すわけが無い――そう思う。 「許して貰える訳、無いよな……」 ついつい口をついて、泣き言が出る。 次の瞬間、シンは直ぐに後悔した。 その呟きをレイはおろか、他の3人も聞いていたのだ。 《なんだなんだオイ、女に振られた事でも思い出したか?》 《女性に嫌われるのは辛い事ですが、ね。……戦場では考えない事です》 《イヤちょっと待て。それはつまりは珍しくシンが色気づいたって事だろ?よっしゃ、今度街に下りたら俺がいい女紹介してやるよ》 《しかし少尉の趣味がシンの嗜好に会いますかね。私は少々疑問に感じます》 《そりゃどーゆー意味だよ!?中尉!》 人を肴に三人は好き勝手に言い募る。 もはや完全に魚を見つけた漁師状態である。 「好きに言っててくれ……」 大尉が茶化し、中尉がまとめ、少尉が混ぜっ返す――いつ終わるともしれない他愛無い会話。 シンはそれを聞き流しながらふと不運にもリヴァイブの虜になった少女、ソラの事を思い出した。 (マユが大きくなってたら、ソラみたいになってたのかな) 意外と口うるさくて、直ぐ泣いて。 その癖、突然怒り出して、今度は落ち込んで。 その度にシンはマユの扱いに困っていた事を思い出す。 ここ最近ソラの扱いでも困ったからだろうか。 マユと同じように。 《もうすぐポイントに到着するぞ。各機準備しろ》 さっきとは違う鋭い大尉の声。 生と死の交わる戦場の匂いが漂う。 一人会話に参加しなかったレイが、冷静に伝える。 《自動操縦を切るぞ。いいな、シン》 「ああ。任せろ」 コントロールスティックを握るシンの手に機体の力感が伝わる。 ダストがシンの手足になった瞬間だ。 ポイントに着くとシン達モビルスーツ隊は全機足を止め、その場に駐機させる。 あとはコニール達の指示待ちになる。 その頃――。 Aルートに張ったコニールの部隊は街道を望む丘の影から、道路を進む大型車両の一団を発見した。 大小合わせて十数台のトラックや大型トレーラーが列を成して悠然と街道を走っている。 「来た来た……」 双眼鏡を眺めながらコニールは、獲物を見つけた獣のように舌舐めずりをした。 「目標発見。B-15、WM。そう通信して」 WMとは西南方向の略である。 「了解!」 彼女の部下の一人がジープに積んである通信機に走る。 「さて……、仕掛けるわよ」 コニールはそばにいた部下に指示を送ると、彼は手元のボックスのスイッチを押す。 すると。 ズズズゥゥン……。 遥か遠くから聞きなれた地鳴りと爆発音が鳴り響く。 街道の真ん中からいくつもの黒煙が立ち上り、補給部隊の車列はたちまち大混乱に陥っていた。 ――今、開戦の狼煙が上がったのだ。 「……また戦争になるんですか?」 医務室の診察椅子に座るソラの口からこぼれた問いに、ふとセンセイのカルテを書いていたペン先が止まる。 ソラは一日一回、医務室に定期健診に来る事になっている 軟禁生活のストレスから体調を崩していないか検査するためだ。 もちろんこれはカウンセリングとしての意味もあって、適当に話し相手を用意する事で、ソラの心理的孤独感を和らげようというのだ。 こうした処置で彼女が大人しくしてくれれば、不安要素は減るという観点からもリヴァイブの益になるとロマは考えていたからだ。 センセイはペンを置いて、ソラの方に向いた。 「どうして戦争が起きるって思ったの?」 「……ここに来るまでほとんど人を見ませんでしたし、誰もいない感じだったんで……。それに……」 「それに?」 「シゲト君が急に来て、『シンがAIレイを必要なんだって』って言ってレイさん持って行っちゃったんです。だから……」 うつむいたまま、たどたどしく答えるソラにセンセイは小さな笑みを浮かべる。 「ソラさんって勘が鋭いのね。……そうね、戦争よ。それも、今回はこちらから仕掛けるわ。」 こちらから仕掛ける、という言葉にソラは心臓を鷲掴みにされた様なショックを受ける。 息が詰まるような感覚が支配していく。 何を言うべきなのか、言葉が見つからなかった。 「……軽蔑する?」 心を見透かしたような一言。 胸に刺さる。 何も言えない。 しかしソラは黙ったままではいたくなかった。 どうしても言わなきゃいけない、そう彼女の心が訴えていたから。 喉の奥から搾り出すようにして、ソラはセンセイにそれまで溜まっていたものをぶつけた。 「……戦争する人達は、おかしいです……!しかも好きこのんでなんて。あの人だって、何時も喜んで戦ってて……」 答えの出ない疑問がソラの中を駆け巡る。 何でだろう。 どうして戦わなきゃならないんだろう。 私は何でここに居るんだろう。 どうしてこんな所で。 本来いるはずのない場所にいる自分が、こんな話をしている。 ”戦争”という言葉、世界に翻弄されているソラがそこにいた。 センセイは少しだけ考え込むように天を仰ぐと、ふっと小さく漏らした。 「そうね……。戦わずにすめばそれに越したことはないわね」 「なら、どうして……!?」 「……誰も、望んだように生きるのは難しいのよ。戦いたくなくても戦わざるを得ない、戦いたくなくても明日を生きるために戦わないといけない場合があるの。私達はこのコーカサスという土地を人々がもっと自由に、もっと幸せ、もっと人間らしくに生きられる土地にしたいの。でも東ユーラシア共和国の政府は外国との関係を優先するばかりで、ここに生きる人達の事なんて見向きもしない。そのために毎日たくさんの人が飢えたり、凍えたりして死んでいる。そういうのを一日も早く止めたいのよ」 「だからって、戦争なんかしなくても良いじゃないですか……!」 「戦う事でしかで世の中を良くする術がなければ、人は戦うものよ。だから戦争は起こるのよ」 「それは詭弁です!戦争なんかしたら皆困ります!」 それまでうつむいていたソラは顔を上げキッと睨む。 だがそんなソラにセンセイは微笑みを返す。 「やっと上を向いたわね」 「……!」 「ソラちゃん。私の考えを押し付けたくないから私から貴女に答えを言うような事はしない。勿論貴女が疑問に思い、質問してきた事にはできるだけ正確に答えるようにするわ。……でもね、これだけは覚えておいて。”正義なんてものは、人の数だけ有る”の」 「私が、間違っているっていうんですか!?」 一層ソラは声を荒げてしまう。 しかしセンセイは優しく彼女を見つめたまま静かに諭す。 まるで母のように、ソラの全てを包むように。 「いいえ、貴方は間違ってなんかいないわ、きっと本当は誰も間違っていないのよ。でもね、結果として”間違っていた”と言われるのが世の中なの。ソラちゃん、もっと世の中を知りなさい。私達が貴女の思っている”正義”では無かったとしても、いつか貴女にもきっと解る時が来る。――人は、正しい事だけでは生きて行けないという事が」 「……だからって悪い事でも、……何をしてもいいっていうんですか?」 「違うわ。”どんな状況でも生きる努力をしなさい”という事よ。そうすれば今の貴方に見えなかったものがきっと見えてくるから。そのためには、貴女は俯いていては駄目。辛くても、見上げなさい。人は、前を見ないと周りを見る事の出来ない生き物なのだから」 暖かい眼差しのまま告げるセンセイの言葉に、ソラはふと孤児院で一番好きだったシスターの言葉を思い出していた。 ――ソラ。どんな時でも、空を見上げてごらん。辛い時、悲しい時……どんな時でも。きっと空は、ソラの味方。何時もソラを助けてくれるから―― (……どうして……。どうして今になってあの時教わった言葉が頭に浮かぶのかしら……) それきりソラは黙り込んでしまう。 今度はセンセイも話しかけなかった。 《B-15、WMか。……ちっとばかり面倒な事になるな》 《予想算出襲撃ポイントでは、遮蔽物がありませんね。相手からも丸見えです》 コニールからの通信を受けやいなや、シン達は全速力で目標の政府軍補給部隊のいる地点に向かっていた。 敵は荒野をまっすぐに突き抜ける街道のAルートを選んでいたのだ。 そこは周囲に緩やかな丘が少々ある事を除けば、満足な遮蔽物もなく見晴らしもいい場所である。 攻めにくく、守るに適した絶好のポイントであった。 すぐに大尉は戦術の修正をし、中尉が直ぐにそのフォローを開始する。 《部隊を分散させるしかないか。……よし、まず少尉と俺は後ろから攻め込んで不意を付く。シンは先行して敵前面にて待機。ダストはこの中で一番足が早い。混乱に乗じて輸送部隊を仕留めろ》 《私はどうします?》 《中尉、お前に指示は必要ねぇだろうが。俺たちの後ろで適当にぶっ放してろ》 《了解です》 そんなやり取りの合間に少尉のボヤキが挟まる。 《やーれやれ、またシンがいいとこ取りですかい》 《そうぼやくな。先陣の俺達が敵を燻り出さなければこの作戦の意味は無い。忘れたか?俺達はわざと敵の罠にかかりに行くんだぞ。それとも少尉、いいところを見せたければ一人で突っ込んでみるか?》 《んにゃ、御免こうむります。俺は、まだ死ぬつもりはないんで。シン、お前が後詰だ。ヘタ打ったら承知しねーぞ!》 「ああ、わかったよ。任せろ」 少尉の軽口にシンはフッと笑みを浮かべる。 つくづくこの三人はチームワークが良い。 (俺達も、こうだったら――少しは違ってたかもな) 自分、レイ、ルナマリアの三人――自分達ではチームワークが取れていると思っていた。 だが、今のこの三人を見ていれば自分達が如何にバラバラだったか良く解る。 一対一なら勝てると自負していたがチーム戦、もしレイとルナマリアが居てチームを組めたとしても勝てる気がしなかった。 (若かった、って事か) シンは首を振って考えを振り払う。 今は思い出に浸っている時ではない。 「コルダミアに駐留してる政府軍はどうする?奴等が増援に来たらやっかいだぞ」 頭を切り替える意味でシンは大尉に聞いてみた。返事は直ぐに帰ってきた。 《現地の部隊に”花火”を上げさせるよう、とっくの昔に指示を出してる。今頃、政府の駐留部隊はそっちの騒ぎで手一杯だ。……俺の指揮にケチ付けるなんて百年早いぞ》 ニヤリと笑う大尉――慣れない事は言うものでは無い、と目が語っていた。 《シンは戦略は赤点だった。許してやって欲しい》 レイにまで言われる始末である。 ともあれ、シン達は動き出した。 シンの心には不安は無い。それは、確かにこの三人が居る事の安心感も手伝っていた。 ――待機していた場所から約15分後。 遠くに数条の黒煙が見える。 目指す街道についたのだ。 大型のトレーラー群がダストのモニタにも視認出来る。 すでに大尉たちはシンと別れ、それぞれ配置についている。 シンは補給部隊の進路方向から、大尉たちは後方から攻める手はずになっている。 あとは攻撃の火の手が上がるのを待つばかりだ。 《概ね予定通りだな。……シン、手筈は覚えているな?》 すさかず冷水を浴びせるレイにシンは渋面になりながら返す。 「大尉達が攻撃を開始したら、前面に展開すりゃ良いんだろ?」 《まあ、そうだ。どの道順序はこの場合あまり関係ないが……恐らく大尉達はシンへの負担を少しでも軽減してやろうという腹積もりなのだろうな》 「お優しい事で」 口では捻くれた事を言っているが、シンの顔は嬉しそうだ。 信頼出来る仲間――シンが最も求めていたもの。 その上、背中を安心して預けられる存在となるとそうはいないからだ。 そんな仲間と戦う、これほど嬉しい事は無い。 《シン、もう少しスピードを上げろ。このまま併走しても意味が無い。この距離なら発見されても有効打はどちらも打てんからな。発見される危険性を憂慮するより、相手方の援軍に寄る挟撃こそ避けるべきものだ》 「OK、レイ」 シンはダストのコンソールを操作して脚部ホバーエンジン及びローラーユニットを起動、ダストの地上最速形態である“ローラーダッシュモード”に移行する。 砂塵を上げてダストが疾駆し、街道が走る荒野の中に一気に躍り出た。 もう敵補給部隊もこちらを補足しただろう。 だが、シンの心に恐れは無い。 ぺろりと乾いた唇を拭い、シンは凄絶に微笑む。 シンの中の”暗い炎”が今、ちりちりと火花を上げつつあった。 進路を塞ぐように巻き起こった爆発の群れに、街道の補給部隊は騒然としている。 何台ものトラックや大型トレーラーが道を外れ右往左往していた。 しかしガドルはそれがレジスタンスの襲撃の初弾だと気づく。 「全方位警戒!総員、降車戦闘準備!!」 トレーラー群の中程に乗っていた補給部隊隊長チャーリー=ガドルは乗員全員に指示を出す。 囮なら囮として、その役目は果たさねばならない。 その時レーダーを監視していた部下が、敵の来襲をガドルに告げた。 《――左舷十時方向、距離1000!敵モビルスーツ補足!》 補給部隊レーダー担当の士官が声を上げると、ガドルは静かに言った。 「やはり来たか。根回しはしておくものだな」 ガドルはもちろんこの作戦を立案したガリウス司令も、レジスタンス“リヴァイブ”が来るとおおよそ察知していた。 そのためにわざわざ高い金を払って情報屋を買収し、さらに他のレジスタンスを経由するという手間をかけてまで情報を流したのだから。 「今、最も売り出し中のテログループ“リヴァイブ”。叩き潰すのならば、早い方が良い。そのための作戦だ」 そう、ロマが危惧した通り、この”補給部隊の大移動”はリヴァイブを誘き出して一網打尽にする作戦であった。 例え全滅させられなくても、リヴァイブの虎の子と云って良いモビルスーツ部隊に大打撃を与える事が出来ると踏んでいるのだ。 「モビルスーツ隊に迎撃させろ!だが敵は一機とはいえ手練れだ!油断するな!!」 トレーラー群、後方のトレーラーに据え付けてあったモビルスーツ“ルタンド”が次々に起動する。 連合のダガーとザフトのジンを、足して二で割った様なシルエットの巨体が次々に起き上がる。 その数、およそ8体。 砂塵が舞う荒野をダストは更に速度を上げて、補給部隊の車列に向かっていく。 様々な思いを余所に、熱砂は更に熱くなりつつあった。 このSSは原案文第4話「今ここにいる現実」Bパート(アリス氏原版に加筆、修正したものです。
https://w.atwiki.jp/ktom/pages/176.html
作詞・作曲:テンネン 唄:鏡音レン http //www.nicovideo.jp/watch/nm2615669 歌詞 アー アー アー アー 私ゃアラバマから 兄の仇を追いかけて ルイジアナへ向かう バンジョーひとつ携え どしゃぶりが続いて 日照りの日々が続いたり 旅は辛いけれど 決して泣いてはいけない 嗚呼スザンナ 目的果たすその日まで おおスザンナ 泣いてはいけない お船にもぐりこみ 息を潜め川を下る 色んな困難が 私の行く手さえぎる 時にはごろつきが 奇声あげて襲い掛かる 密かに息を止め 立ちすくむ悲しい日々 嗚呼スザンナ 目的果たすその日まで おおスザンナ 泣いてはいけない 嗚呼スザンナ 仇討ち遂げるその日まで おおスザンナ 泣いてはいけない けれど静かな夜 夢の中に兄の姿 何度も何度でも あの笑顔を思い出す 丘を駆け下りてく 優しい兄の面影に 南から来たよと 私は静かに告げる やがてルイジアナに たどり着く日が来るだろう 兄のお墓の前 私は祈り捧げる けれどももしかして 志半ばに倒れ 愚かな人生と 笑われるかもしれない 嗚呼スザンナ 目的果たすその日まで おおスザンナ 泣いてはいけない 嗚呼スザンナ 仇討ち遂げるその日まで おおスザンナ 泣いてはいけない 私ゃアラバマから 兄の仇を追いかけて ルイジアナへ向かう バンジョーひとつ携え どしゃぶりが続いて 日照りの日々が続いたり 旅は辛いけれど 決して泣いてはいけない アー コメント 名前 コメント trackback
https://w.atwiki.jp/hmiku/pages/1419.html
【検索用 ああすさんな 登録タグ 2008年 VOCALOID あ テンネン 動画削除済み 曲 曲あ 鏡音レン】 + 目次 目次 曲紹介 歌詞 コメント 作詞:テンネン 作曲:テンネン 編曲:テンネン 唄:鏡音レン 曲紹介 曲名:『嗚呼スザンナ』(ああすざんな) 仇討ちソング。 動画は一見の価値あり。 物語はおやすみスザンナへと続く。 歌詞 (ニコニコ動画より転載) 私ゃアラバマから 兄の仇を追いかけて ルイジアナへ向かう バンジョーひとつ携え どしゃぶりが続いて 日照りの日々が続いたり 旅は辛いけれど 決して泣いてはいけない 嗚呼スザンナ 目的果たすその日まで おおスザンナ 泣いてはいけない お船にもぐりこみ 息を潜め川を下る 色んな困難が 私の行く手さえぎる 時にはごろつきが 奇声あげて襲い掛かる 密かに息を止め 立ちすくむ悲しい日々 嗚呼スザンナ 目的果たすその日まで おおスザンナ 泣いてはいけない 嗚呼スザンナ 仇討ち遂げるその日まで おおスザンナ 泣いてはいけない けれど静かな夜 夢の中に兄の姿 何度も何度でも あの笑顔を思い出す 丘を駆け下りてく 優しい兄の面影に 南から来たよと 私は静かに告げる やがてルイジアナに たどり着く日が来るだろう 兄のお墓の前 私は祈り捧げる けれどももしかして 志半ばに倒れ 愚かな人生と 笑われるかもしれない 嗚呼スザンナ 目的果たすその日まで おおスザンナ 泣いてはいけない 嗚呼スザンナ 仇討ち遂げるその日まで おおスザンナ 泣いてはいけない 私ゃアラバマから 兄の仇を追いかけて ルイジアナへ向かう バンジョーひとつ携え どしゃぶりが続いて 日照りの日々が続いたり 旅は辛いけれど 決して泣いてはいけない コメント これ原曲はアメリカかどっかの曲だよな。私の為に泣かないでとかいう歌詞があったから元は悲恋歌なんだろうが…。 -- 名無しさん (2008-07-13 12 34 59) ↑原曲という扱いではなくて、作ってみたら本人自身が「サビの部分が『おお、スザンナ』に似てる?」と思い、色々開き直ってこんなのになったらしいから、歌詞も似させたんだと思う。 -- 名無しさん (2008-07-13 16 45 37) プロトタイプスザンナをピアプロのmp3でダウンロードさしてもらって聴いてるけど、ダルイダルイって言っててかわいい。働く人の歌だわ。 -- 名無しニートさん (2008-07-18 12 27 17) 悲しい歌に聞こえる。。。 -- レモン (2009-11-08 02 17 54) テンポが良く 聞いていて涙が出そうでした 仇討ち曲ですが テンネンPさんの曲で悲しい歌だけど仇討ちのために生きている・・・ まあ解釈はそれぞれだけどいい曲でしたww -- 麻里亜 (2010-06-10 21 08 25) テンポ好きだわ。こういうのもアリなんだなぁ。 -- のいる (2011-01-07 15 00 39) 名前 コメント